涼宮ハルヒの憂鬱
suzumiyaharuhinoyuuutsu

 

「この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上!」入学早々、時を止めるような挨拶をした涼宮ハルヒ。そんなSF小説じゃあるまいし…と、誰でもそう思う…。しかしハルヒは心の底から真剣だった。それに気づいたキョンをとりまく日常は、もうすでに超常になっていた…。涼宮ハルヒが団長の学校未公式団体「SOS団」が繰り広げるSF風味の学園ストーリー。


☆アニメ化されて10年以上だそうで今さらだが、名作と言われている「涼宮ハルヒの憂鬱」。女子高生もののアニメ動画リンクに力を入れている弊ブログでも前ブログで20数話までフォローしてたのだがブログ自体が強制閉鎖となり、今回ようやく最終話までアップすることが出来た。ちょっと話がそれるが、近年の女子高生ものアニメで話題となった「けいおん」「ラブライブ」も弊ブログでフォローしている。が、共通して完全に女だけの世界で、「女子校」気分が濃厚。それはそれで面白いけど、SM的視点では見所がないと言わざるを得ない。
 「SM小説書庫2」的には「涼宮ハルヒの憂鬱」は見事にSM的構造の物語だと思う。ただしそれは男性中心ではなく、女性中心のFEMDOMなSMである。ものがたりの語り手でごく普通の男子高校生「キョン」が、強烈な女王様キャラの「涼宮ハルヒ」に選ばれてさんざんな目に遭わされ「調教」されるが、いつしか「ハルヒ」女王様にかしづく事に歓びを覚えるようになって結ばれる話だと、私は見た。
 これは私の妄言ではない。その証拠にオープニング曲の歌詞が既に暗示的である。ハルヒの歌唱で「なーんでだろー、あーなたを選んだ私です」で始まるこの歌は、そう思って聴くとまんまハルヒ女王様が選んだ男奴隷を籠絡する歌詞ではないか。
 取り立てて特徴のないキョンに会った瞬間「見たことのない美人」と言わしめたハルヒは、容姿端麗で何をやらせても優秀と言う、Sにふさわしい完璧な女王様である。凡人キョンがこんな女性になら支配されても仕方ない、と思わせるだけのスペックの高さがハルヒにはあるのだ。がもちろん、出会ってすぐに主従関係が成立するわけもなく、傍若無人に振る舞うハルヒに付き合わされて被害にあうキョンは抵抗する。
 いわくがあって集まった他のSOS団員は、それぞれ異なるアプローチながらハルヒがこの世界の存続に強い影響力を持つ特別な人間である事を知っており、彼女が機嫌を損ねないよう腐心しているので逆らったりしない。本人であるハルヒだけが自分の力を自覚していないのがストーリーに深みを与えているが、結果的にただ一人一般人なのに選ばれてしまったキョンだけがハルヒにたてつく役割になってしまっている。
 だが、時にハルヒは自分の味方だと信じているキョンに暴走行動を諭されて拗ねて不機嫌になってしまい、その結果世界が不安定になったりする。するとキョンはそんなハルヒに心を動かされ、機嫌を直させるべく行動してしまう、こんな事が何度か繰り返されるうちに、確実に単にウザイ馬鹿女だったハルヒとキョンは心が通じ合って来るのである。
 そして最終回のエピソード。ハルヒが巻き起こすいつもの大騒ぎと違って、実に静かなSOS団の日常が描かれる異質なオープニングから、現れたハルヒはかなり遠くにある商店街からストーブをもらって来るよう命令する。相当な苦行だが、まだまともな命令だと納得してしまうキョンは従順に商店街へと向かう。既に8割方ハルヒ女王様に従う心理状態に陥っているのである。
 途中で雨に降られて苦労しながらストーブを部室に運んだキョンは、疲れて寝てしまう。目覚めると、他の団員達は帰宅してハルヒ一人が彼の目覚めを待っていたと言う。もちろん部長として戸締まりする必要があるからと言い訳するが、目覚めたら2人切りだったのだからキョンの心が動かされないわははない。
 そして強まった雨に困った様子のキョンに、「傘は一本で十分でしょ」と、初めて彼への好意を明かすハルヒ。強引に相合い傘に持ち込んだ帰り道、キョンは(ストーブを持って来てやったのに感謝の言葉もなしか)などと独白しているが、ハルヒに言われて体を近寄せる。照れくさくなったのか、パッと離れてアッカンベーをして見せるハルヒ、と言う終わり方で、私は正直、やられた、と思った。一言も愛の言葉など発していないのに、2人が結ばれたのが見事に表現されているのだ。だって、こんなに愛らしく魅力的なハルヒ女王様に征服されるなら仕方ないな、と言うキョンの心理が痛いほどよくわかるのだから。
 断言しよう。「涼宮ハルヒの憂鬱」は優れたFEMDOM的SMアニメである。SMとは心の通じ合った人と人の関係性であって、どちらかが相手の意思を無視して無理矢理陵辱するわけではないのである。最後の相合い傘のシーンで、キョンとハルヒの心は確かに通じ合ったのだと思う。ハルヒ女王様にかしづく凡人キョンとして。

(映画版について)

 「涼宮ハルヒの憂鬱 劇場版 涼宮ハルヒの消失」は衝撃的で凄まじくハイクオリティな作品だった。
 わが家は息子を寝かし付ける関係上、1階居間の消灯時間は22時と決まっており、居間の隣室で寝ているヨメと息子を残し、私一人2階の寝室に上がらねばならない。それからその日にアップしたアニメ動画を見たり、ゲームをプレイしたり、読書したりするのだが、たいてい11時過ぎには眠りに入っている。「涼宮ハルヒの憂鬱 劇場版 涼宮ハルヒの消失」はアニメとしては規格外な2時間半以上の大作らしいので、全部鑑賞するのは無理かもと覚悟していたのだが。
 冒頭から全く飽きさせず見事に緊張感を持続しており、眠ってしまう心配はまるで不要だった。ハルヒが消えてしまい改変されてしまった世界に自分だけ取り残されたキョンが、狂おしくハルヒを求めて手掛かりを追うミステリアスな前半から、元通りの世界を取り戻すべく命を賭してキョンが奮闘する怒濤の展開の後半まで、本当に一睡の暇も与えられなかった。TVアニメ版でハルヒと心の通い合ったキョンが、ハルヒを失った世界に耐えられず、人が変わったように熱く行動するのが印象的。が、個人的に最も感動したのは、元通りに修復された世界の屋上での長門有希とキョンの会話。(恐らくはキョンに対する恋愛)感情を持ってしまったために、(恋敵となるハルヒがいない)世界を改変してしまった張本人の長門が、それを咎められて上層部?に消されるらしいと告白する。するとキョンはそんな長門を俺が守ってやる、と熱く言い放つのである。それは長門がハルヒ団長のSOS団の仲間だから。キョンには力がないが、世界を変える力を持ったハルヒを動かし、みくるや古泉も巻き込んで全力で仲間を守ると言うキョンの決意は意外なほどに感動的で、この場面で私は泣いた。
 TVアニメの続きと言う位置づけなので、何の知識もない人が鑑賞するにはハードルが高い。もちろんハルヒ自体を受け付けない人もダメだが、ごく少ない私が知っている限りでは最高峰のアニメ映画、いや実写映画を入れた中でも最高ランクだったと評価したい。
 ヨメの趣味が洋画鑑賞なので、若い頃はずいぶんと映画館通いに付き合わされたものだが、どんなに面白い映画でも必ず途中でウトウトして隣のヨメに小突かれたものだ。そんな私が眠気を覚えなかった映画なんて記憶にないのである。


【キャラクター紹介】

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※上記の説明文に偽りあり。どう考えても「普通」ではなく、自分の好きなように行動して周囲に多大な迷惑を掛ける人。ところが彼女が無意識に世界を変換する力を持っているため、事情を知っているSOS団員は暴走させないよう、機嫌を取らねばならない、と言うのがストーリーの基軸。が、美少女で何をやらせても優秀なハルヒは、キョンを初めとする団員が崇拝するに足る完璧なS女王様。このキャラクター造形は素晴らしい。


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※ロリな外見だが巨乳で、何でも言う事を聞いてしまうどM美少女。おまけにドジッ娘ち言う、絵に描いたような萌えキャラ。ハルヒが彼女をSOS団にスカウトした時、そのものズバリ彼女のキャラを指摘しており、このストーリーをハルヒが作ったと言う「事実」を暗示している。エロ衣装に着替える場面が多くほとんど見えそう。18禁なら間違いなくズリネタの女王だろう。


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 長門有希
※一番人気の物静かでミステリアスな美少女JK。実はハルヒを観察している宇宙人で、地球を破滅させないよう陰で骨を折っている。が、恐らくは悪評高い「エンドレスエイト」を何万回も経験してしまったために変調をきたし、あり得べくもない「感情」をのぞかせるようになる。その結果が映画版における暴走であるが、それがわかっても「キョン」に守ってやると宣言されて救われる。とりわけ後半からの彼女は周囲をアツくさせる存在だ。


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※得体が知れないが礼儀正しく人当たりの良いイケ面枠。超能力者組織の一員で、ハルヒの暴走を食い止めるべく暗躍しているが、表面上は笑顔で従順。ハルヒに逆らわないにしても妙に余裕を見せており、実際にいたらイケ好かない男かも。映画版ではパラレルワールドでハルヒの恋人役になっているが、あまり恋愛関係のエピソードはない。

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 キョン
※主人公なのに本名不明のかわいそうな男。SOS団で唯一の普通人なのだが、ハルヒ女王様に見初められて強引に引き込まれた、と言うのがストーリーのキモ。初対面でハルヒの美貌に圧倒される描写があるが、実は中学時代に出会っているようで、彼女と結ばれるべき運命らしい。基本凡人なのでハルヒの秘密を知って戸惑うばかりであるが、彼女に付き合ってさんざんな目に遭わされながらも、強く惹かれていく。時に感情を爆発させてハルヒを怒らせるが、大局的に見ると夫婦喧嘩みたいなもので、ぶっ飛びまくってるストーリーの中で、ハルヒと結ばれていくのが感動的ですらある。たとえそれが女性上位SM的意味であったとしても。あえて断言すれば、女性のわがままを聞いて奉仕する男性、と言うのは現代日本社会の典型的男女関係と思うのだ。

参考動画→ハレ晴レユカイ harehareyukai (フル ダンス 歌詞付き)

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