日本衆愚社会 呉智英
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自称知識人の無知・無教養を白日に晒す

”もっとも危険な論客”による11年ぶりの新作評論集。衆愚社会と化したこの国の、歪んだ言論状況を毒味たっぷりにあぶり出す。
たとえば、「支那」が禁止用語とされていることに、「差別語ではない」と反論。「日本人が『支那』と呼ぶのが差別なら、なぜ中国は欧米の『China』に抗議しないのか」と疑問を呈す。
〈イギリスでもポルトガルでもChinaは一貫して蔑視の文脈で使われ、支那侵略はほんの二十年前まで一世紀半も続いたのだ。支那はこうした蔑視に一度として抗議したことはない。その一方で、日本にのみ「支那」使用を禁ずる。理由は、欧米崇拝と日本を含むアジア蔑視だ。最も恥ずべき差別意識がここにある。 そして、日本人の卑屈さ。世界中で差別者が被差別者に謝罪した例は、残念ながら多くない。しかし、差別されている方が差別している方に謝罪している例は、日本以外に一つもない。「差別されてごめんなさい」という異常な言語空間が形成されている。〉
自称知識人の無知・無教養が、いま白日に晒される。


☆呉智英は学生時代に愛読していたが、30年ぶりに読んでも芸風が変わらず、ある意味安心した。いわゆる俗論を廃し、正しい教養を訴える芸風だが、概ね「その通り」と納得し、作者の教養の深さに感心する。一方言葉は生き物なので、誤用であっても社会一般に受け入れられてしまえば、それをさらにグチグチ言うのはどうなのか、と言う気はする。例えば「土人」と言う言葉は現地の土着の人で差別的な意味はない、と言うのは理解出来たが、現実にネガティブなイメージで使われ、言われて気分を悪くする人がいるのなら、私なら平気で使ったりしない。なかなか呉智英のような言動は難しいと思うのだが。それが「衆愚社会」を貶める芸風だと言ってしまえばそれまでだけど。


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